“育ちあい”のテーマの下、人々が笑顔で誇れる街・団地を目指して――「たまプラー座まちなかパフォーマンス プロジェクト」代表 林月子さんインタビュー

田園都市として知られるたまプラーザの街で、“育ちあい”をテーマに活動する「たまプラ一座まちなかパフォーマンスプロジェクト」(以下、たまプラ一座)。フラッシュモブやパレードといったまちなかパフォーマンスを通じて、人々のつながりを生み出す興味深い取り組みを展開しています。

今回は、そんなたまプラ一座の代表を務める林さんに、お住まいのたまプラーザ団地(以下、たまプラ団地)の魅力をはじめ、たまプラ一座設立のきっかけ、2018年に団地で実施したパフォーマンス「ダダンチダンチ」についてなど、盛りだくさんの内容でお話をお聞きしてきました。

「たまプラ一座まちなかパフォーマンスプロジェクト」代表の林さん

生活を支えてくれた地域への恩返しの気持ちがきっかけ。たまプラ一座の設立

2013年、「たまプラーザの駅前でフラッシュンモブをやりたい!」と思い立った林さんは、横浜市と東急電鉄が連携して始めた次世代郊外まちづくり創発プロジェクトにエントリー。晴れてプロジェクトとして認定され、本格的に動き出すタイミングでたまプラ一座を結成しました。

インタビュー冒頭、たまプラの街で団体を結成した理由を林さんにお聞きすると意外な台詞が出てきました。

「実は私は、今では代表をやってますが、以前は人前で話すのが苦手だったんです(笑)。でも子ども3人が小学校に通っていた時、PTA会長をやってくださいと言われて。それまで地域の人に助けてもらいながらなんとか子育てしてきた身だったので、これをやることで恩返しのひとつになれば…という思いで引き受けました」(林さん)。

林さん

そしてPTA会長を務めたことをきっかけに「この地域のために動いてくださっている人がこんなにいるんだ」と知っていきます。

「それまで、(たまプラーザの街が)子どもたちにとって安心・安全な街になってくれないかな、ならないかな、と思っていたんですけど、それは誰かにお願いすることではなくて、自分がやらなくちゃいけないことだということに気づいていったんです。この街に住んでいたらみんな優しくなれるよ、とか、育ちあえるよ、とか、そう思ってくれる人が増えてくれたらと思って」(林さん)。そんな強い思いがたまプラ一座の設立につながっています。

“おせっかい”な人が多い団地。あたたかなまなざしを感じながら暮らす

2013年にたまプラーザの駅前で実施されたフラッシュモブを皮切りに、たまプラ一座は、2014年に商店街を練り歩くパレード、2015年、2016年に美しが丘公園でのパフォーマンス、そして2018年にはたまプラ団地を舞台に歌や詩の朗読、ダンスなどの複合パフォーマンス「ダダンチダンチ」を実施しました。

駅前でのフラッシュモブパフォーマンス「HAPPY MOB DAY」(2013年11月)
美しが丘公園でのパフォーマンス「BAMBOOOM」(2016年11月)

岐阜から上京し、結婚後には千葉に住んでいたという林さん。たまプラ団地には、2人目のお子さんが生まれるタイミングで住み始めました。団地の魅力についてお聞きすると、豊かな緑の存在と、「良い意味で“おせっかい”な人が多いんです」と笑顔で話してくださいました。

「子どもが幼いときには、ちょっとおせっかいな優しいおばちゃんたちに『あなたのお子さん、叱っておいたからね!』とか言われて(笑)、助けてもらいましたね。あとはおさがりの服を交換したりとか、味噌やお醤油を借りたりとか。もちろんやらない人もいますけど…。私は友人にトイレットペーパーを借りたりもします(笑)」(林さん)。

人情味あふれる人と人とのつながりが多く感じられるのが、団地の大きな魅力のひとつだそうです。

たまプラ団地内の公園でのパフォーマンス「ダダンチダンチ」(2018年11月)

たまプラーザの駅に直結している東急百貨店からは、団地につながる歩行者専用の遊歩道もあり、ここを通れば車の心配なく歩くことができます。「その遊歩道で地べたに座ってゲームしている子がいたり、自転車の練習している子がいたり。そしてそれを見守るお母さんや、話しかけるおじいちゃんがいたり。子どもたちの姿と、大人たちのあたたかいまなざしがあるのが、生活していく中ですごく安心できるなっていうのも、この団地の魅力かなと思います」(林さん)。             

駅から団地に直結する通学路。車が通らないのに加えて、幅も広く開放感がある

団地が好き!その気持ちを共有しながら作り上げた「ダダンチダンチ」

2018年のパフォーマンス「ダダンチダンチ」で、ご自身が住むたまプラ団地を舞台に選んだ理由もお聞きしました。

「私は団地に住んでいて、この団地が大好きで、良さをみんなに知ってほしいなと思っていて。まちなかパフォーマンスを通してもっと知ってほしいし、この先『あの場所で、ダダンチダンチで、あんなことしたよね』っていう思い出や記憶がみんなの中に残れば、その時の団地の財産として残っていくのではないかと思っています」(林さん)。「ダダンチダンチ」に限らず、たまプラ一座のパフォーマンスはあえて日常的な場を舞台に選んでいるのも、こういった思いからです。

たまプラ団地内の公園でのパフォーマンス「ダダンチダンチ」(2018年11月)

しかしその「ダダンチダンチ」が無事開催されるまでの道のりは簡単なものではありませんでした…。

団地内の公園の使用許可がなかなかスムーズに取れず、なんと「すごく難しくて、使用許可が取れるかどうかわからない段階でキックオフして練習も始めたんです(笑)」(林さん)とのこと。

団地の住民にアンケートをポスティングして、その結果をもって団地の代表の方々に判断してもらい、周知もしてもらうという場面も。団地の方に段階を踏んで理解していただきながら、1年半もの歳月をかけてなんとか無事使用許可を得たそうです。

「ダダンチダンチ」のキックオフミーティング(2018年7月)。この約2か月後にようやく公園の使用許可を得ることができました

住民へのアンケートの中には辛辣な意見もあったそうで…。しかし、「反対意見だったとしても、みんな自分が暮らしているこの団地を大切にしたいっていう気持ちは一緒なんだなというのはすごく伝わってきました。いろんな考え方があるからこそ、うまく理解しあって、お互い配慮しつつ『みんな団地が好きなんだよ』って気持ちを共有することが大事だなって」(林さん)と、ひたむきに活動を進めていきました。

「ダダンチダンチ」の練習風景(2018年10月)

実施にあたっては、“参加者のグラデーション”も意識しました。歌や踊り、朗読など、世代を問わず誰もが気軽に参加しやすい入口を用意。林さん曰く、「団地でやる以上団地の人に参加してほしい・見に来てほしいと思ったので、あんまり激しいものではなく、誰でも参加できるような、見に来た人がその場でやりたいと思ったら参加できちゃうような構成にしています」とのこと。

「ダダンチダンチ」の衣装作りの様子(2018年10月)。衣装は参加者の手作り!

また、たまプラ一座のパフォーマンスでは、みんなで作り上げていくことはもちろん、“外部の専門家に教えてもらう”ことも大切にしています。「自分たちだけでやるとちょっと学園祭とか学芸会っぽくなってしまうかなって。でもプロに関わってもらうことで、『私たちこんな人たちと関わったんだ』っていう自信につながって、その自信が積み重なっていくと、それが街の自信になっていくんじゃないかなと思っていて」と林さんらしい言葉で語ってくださいました。

「ダダンチダンチ」本番前の様子(2018年11月)

助け合い・支え合いを通して彩られていく団地の暮らし

パフォーマンスに限らず、団地の日常の中でもおもしろい出来事は起きています。コロナ禍で元輝体操(団地内で行われていた定期的な体操)がなくなってしまい、人に会えず寂しい、というおばあちゃんたちの言葉を聞いて、「『公園でマスクしてやればいいんだよ』って話したら、「じゃあ林さんやってよ」と言われて(笑)。じゃあやろうかって。私がスピーカーとスマホ持っていくんですけど、最初5~6人だったのが、今は20~30人になりました(笑)」(林さん)。

ラジオ体操の様子。マスクを着用し、ソーシャルディスタンスを確保して実施されている(2020年8月)

仕事が再開して林さんが参加できなくなってからも、みなさん自発的に実施しているというパワフルぶり。体操に集まった人同士で交わすちょっとした会話が、一人じゃないんだ、コロナ禍でみんなもがんばっているんだ、という小さな希望につながっているようです。

このラジオ体操がきっかけで住民の新しいつながりも生まれており、「これなら○○さんにつくってもらおう」、「○○さんに料理教えてもらおう」など、人々の隠れたスキルや得意なことが引き出されている一面もあるのだとか。それと一緒に「『それならこんなことやってみたい!』という楽しいアイデアも出てきています。「青空アート展」やろうかって話も出てて…」(林さん)。これは、団地アツいです…!

「ダダンチダンチ」がきっかけで、団地の若い世代とシニア世代が交流する「たまプラ結びの会」という仕組みも生まれました。困っていることやお願いしたいことをワークショップを通してお互いに共有して、それなら私でもできる!ということをうまくマッチング。人に頼られる・感謝されることで生まれる、小さな喜びづくりのきっかけになっています。

「たまプラ結びの会」の様子(2019年12月)

林さんは仰います。「団地って、助け合って支え合って生きてるっていう感じがすごいあります。“住居”じゃなくて、“暮らし”っていう感じがあるかな。私は団地に暮らしていて本当に良かったし、団地に子どもたちを育ててもらったと思っています。良い意味でおせっかいな人たちがいっぱいいる、暮らしやすい、人間味あふれる暮らしがここにはあります」。

住まいを住戸単位の“点”ではなく、団地・街単位の“面”で捉える林さんの言葉は、心に響くものがありました。様々なバックグラウンドを持った人たちと関わることで、生活に人々の個性が加わり彩りが添えられる。互いに必要な存在だと感じることの積み重ねが、団地のみなさんの笑顔と楽しさにつながっているのだと思います。団地暮らし、素敵ですね!私も住んでみたくなりました。

2020年9月26日(土)には、こちらの記事に登場した林月子さんも登壇する無料オンラインイベントを開催します。団地暮らし、団地リノベーション、団地再生、などなど、団地のリアルに関するトークが盛りだくさん!ぜひお気軽にご参加ください。

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