街の建築プラットフォームを目指す。『田園都市建築家の会』の取り組みとは?
たまプラーザに活動拠点をおく『田園都市建築家の会』は、住まいについて気軽に相談できる場づくりを目指しています。
横浜市の田園都市エリアを中心に、住宅の設計のみならず家づくり全般サポート。さらに地域に密着した街づくりの活動も行なっています。
当記事では『田都会』の取り組みについて、会の代表を務める建築家の長崎辰哉さんと、同会の事務局長兼ディレクターを務める当山純雄さんに詳しくお話を伺いました。
『田園都市建築家の会』とは?

レンガ造りの建物が軒を連ねるたまプラーザ駅前通り商店会。角のマンションの一室に居を構えるのが、経験豊富な12名の建築家と2名の不動産コンサルティングの専門家(ディレクター)がタッグを組んだ、田園都市建築家の会(通称『田都会』)です。
建築家による住宅の設計に限らず、ディレクターが土地探しから資金計画まで一貫して家づくりをサポートしています。
“いい家をつくることで街づくりにも貢献できる”と信じて

当山さん
「建築家との家づくりがテレビ番組となるなど、選択肢の1つとして広く知られ始めたような頃、2011年4月29日に、田都会の活動拠点として『家づくりCAFE』がたまプラーザ駅の南口にオープンしました。
田都会は、私が以前からお世話になっていた地元の建築家・秋田憲二さんが発起人となって始動したんですが、建築家ばかりでなく、設計以外のサポートができる人材として誘いを受けたことがきっかけで今に至ります。
この住環境が良い田園都市線の沿線で、建築家の手で、さらに良い住宅を増やすことで、街づくりに貢献したいという思いがありました」

長崎さん
「田園都市線沿線は、たまプラーザに限らず自分たちの手で街を育てて来たという意識を持った方が多く、良い街がたくさん広がっている印象がありますよね」
当山さん
「田都会は、建築家との家づくりに敷居の高さを感じている方や、どこに相談したら良いのかわからない方に、商業的ではなくフラットに相談ができる場が作れないか。『地域の建築プラットフォーム』のような存在を目指したいというのがベースになっています。
事務所は、『家づくりCAFE』と名づけて、ふらっと立ち寄れて、オープンに相談できる場にしたかったんです。当時は会を知ってもらうために、みんなでポスティングまでしたこともありましたね」
長崎さん
「当初は、たまプラーザの周辺を一人一人の建築家が半日ほど歩き回って、田都会の案内を配るようなことをやっていました。普段は涼しい顔でいることが多い建築家ですが(笑)、そうやって汗をかくことはすごく大事なんですよね。自分たちのの足を使って街を知るきっかけにもなりました」
建築家は敷居が高い?家づくりの課題

長崎さん
「2000年代に入ってコンビニにも建築を特集する雑誌が並び始めたことで、建築家との家づくりが一般に認知されるようにはなりました。それでもまだ『建築家に頼むなんて…』と腰が引けてしまう方も少なからずいらっしゃるのではないかと思います」
当山さん
「敷居が高いというイメージもありますが、建築家との家づくりには興味があるけれど、そもそもハウスメーカーや工務店との家づくりの違いがわからないという相談者さんも多いです。
なので、田都会ではまずその違いからお話をし、どういう家づくりをしたらいいかをお客様に寄り添って一緒に考えていきます。
例えば、何十ページにも渡る見積書が来た時に、全てを自分たちで読み込んで正しく判断するのはとても大変でしょう?結局、安易に見積額だけで選んでしまう方が多いんです。
私たちに相談いただければ、いくつかの工務店が出した見積もりを建築家がつぶさにチェックして、内容の違いについて具体的にわかりやすくアドバイスさせていただくということもできます。そういったサポートがあれば、家づくりがもっと『楽しく、楽に』なるのではないでしょうか」
家づくりについてどんな相談ができる?

当山さん
「田都会に相談したら、必ず建築家にお願いしなければならないということは全くありません。
まず私が最初に窓口となり家づくりの要望を伺ったり、全体の資金計画を組むことから始めます。“どういう暮らしをしたいか”がわからないと全体の予算は見えてこないので、いろいろなお話を聞き、お客様と具体的なイメージを共有しながら組み立てていきます。
ご予算の中で建築家に頼んだ方が良い場合、ハウスメーカーの方が適する場合、注文住宅ではなく建売が良い場合など、いい家づくりのための最適解をフラットな立ち位置でアドバイスすることを心掛けています。
かつて私はハウスメーカーに在籍していたので、ハウスメーカーの家づくりもわかっていますし、田都会には腕のいい工務店さんとの繋がりもありますので、俯瞰して、それぞれの強み、弱みをお話することができると思います」

「田都会に在籍している建築家をご紹介する場合には、過去の事例をもとに気になった建築家と面談の機会をセッティングします。
このほか、要望をお伺いして最大3名の建築家によるコンペを行う場合も。それぞれの建築家が自らの提案を図面や模型を用いてプレゼンテーションしたあと、オブザーバーの建築家による解説なども聞けます」
田都会で行われるハイレベルなコンペ

長崎さん
「これはとてもいいシステムだと思います。お客様にとっては3つのプレゼン(プラン提案)全てが魅力的で、どの提案が自分たちの要望に本当にフィットしているのか判断できない場合もあるので、提案者以外の建築家がオブザーバーとしてプロの観点も交えてお客様の要望に見合ったポイントを指摘するなど、的確、適切にサポートさせていただきます」
当山さん
「当日のプレゼンの順番もあみだで決めますし、自分以外の建築家のプレゼンも聞いているので参加した人が公平になるようにオープンな形でコンペを開催しています」
長崎さん
「建築家同士の勉強にもなるんです。全員がプレゼンに立ち会っているので、コンペの勝因や敗因について、互いに意見交換をしたり、議論したりを通じて、次回以降のより良い提案・より優れたプレゼンテーションへとつなげていくことができます。
建築家が集まる団体としては、様々な個性を持った建築家同士が共に汗をかき、互いに切磋琢磨しつつリスペクトし合える点で『学びのある環境』だと思います」
当山さん
「プレゼンテーションを行う段階で費用をいただいているのですが、本当に価値のある内容ですよ。お客様には相当なメリットがあると思いますし、建築家住宅の醍醐味の一端を味わう機会にもなると思います」

長崎さん
「みんな本気ですよね。互いに忖度することなく、一切手を抜かないです」
当山さん
「田都会の他のメンバーの手前もあって、手を抜けないというのもありますよね(笑)。以前プレゼンの後に、本気でビシッとダメ出しをされている建築家もいました」
長崎さん
「ダメ出しされたら痛みもあるけれど、ありがたいことですよね。その経験や反省は他の機会に必ず生きて来ますからね」
当山さん
「それから、土地探しの相談もたくさんいただきます。僕たちディレクターが土地探しから建築家選び、施工にいたるまで一貫した家づくりをサポートするのが田都会の強みだと思います。
田都会のお客様は、この田園都市線はさることながら、ご検討エリアは幅広くいらっしゃいます。青葉区で探し始めて結果的に鎌倉に家を建てた方もいらっしゃいますし、遠くでは伊豆高原を選んだ方もいらっしゃいました。
もちろん新築に限らず中古物件購入のご相談や、リフォームのご相談もお受けしています」
夏祭りやアートプロジェクトにも参加。地域密着型の建築プラットフォームに
長崎さん
「住まいの相談にとどまらず、建築家と直に触れ合える機会にしたいと、地域に根ざした活動も行なっています。僕たち建築家は、敷居が高いと思われがちですが、決して怖い人たちではありませんので、まずはそこから知って頂こうと(笑)」

当山さん
「会を発足してすぐに、たまプラーザ駅前商店会の夏祭りに出店して子ども向けのワークショップなど、毎年知恵を絞って色んなものを創る楽しさを伝える場を提供しています。中でも数年前に行った椅子作りは大反響でした(笑)」
長崎さん
「地域とともに成長していく感覚(ローカル感)を大事にしたいですね。ここ数年で街もかなり変わってきているので、コロナ禍でこれまでやってきた活動が途切れないように街の変化を見ながら、次世代に引き継げる意識を持って、自分たち“田都会の建築家”にできることを考えていこうと思っています」
100段階段プロジェクト

当山さん
「以前、沿線にアートの力で街を活性化しようという『AOBA+ART』プロジェクトでご相談を受け、建築家と地域住民でタッグを組み、階段や遊歩道の整備・修景活動として『美しが丘100段階段』(※)プロジェクトの取り組みを行いました」
長崎さん
「たまプラーザエリアには、この街を良くしたいという思いや意識が強い方が多いですよね。
我々のように普段民間の仕事を中心に活動している建築家は、公共の場に関わる仕事がしたいという思いが強くあるので、とても良い経験になりました」
当山さん
「良い街が住宅の質を高め、良い住宅が増えれば自然と良い街ができていくので、どちらも高めていくことに意味があると思っています」

長崎さん
「そのベースにあるのは良い住み手(住民の皆さん)なんですよね。家を形づくるのは「人」ですから、全てつながっています。駅の向こうにまだ沼があったような時代から住んでいる方たちは住民同士の繋がりも深く、若い世代にバトンを渡していこうという意識も持たれているのを感じますよね」
※『美しが丘100段階段』
美しが丘小学校下の「百段階段」とそれに続く遊歩道は、この地域のいちばん標高の低いところ (標高49メートル) から一番高いところ(標高83メートル)を包含し、丘の街である美しが丘を最短距離で体感できる場所です。
これを地域のランドマークとし、階段や遊歩道の整備・修景活動を通じて、持続可能な郊外住宅地のあり方を提示していきたいと考えています。この整備は区域内の他の階段や遊歩道の今後の整備にも波及していくきっかけともなります。(100段階段プロジェクトサイトより)
書籍の出版

長崎さん
「数年前に、田都会として書籍を出版しました。田都会の建築家のこれまでの事例を集めて、等身大で具体的に、分かりやすさを意識して紹介しています」
当山さん
「建築のプロと一般の方、双方に向けて家づくりに役立つ情報をまとめました。中国語にも翻訳されています」
Youtube・ラジオの配信を開始。オンラインでも繋がりを強化。
「コロナ禍の前は毎週セミナーを開いたりリアルな繋がりを広げることが中心でしたが、最近はオンラインでの情報発信を強化しています。
田都会のオンラインラジオのページを立ち上げました。
『家づくりミライラジオ』といって、zoomを使って家づくりについての情報を生配信しています。事例紹介や建築家へのインタビューもあり、土地探しのポイントや資金計画など色々なテーマの映像コンテンツになっています。配信した動画はYoutubeにまとめているので、是非ご覧ください。
田都会の家づくりCAFEも、いつも明かりが灯っていてふらっと立ち寄ってコーヒーを飲んだりできるとか、そんな開けた場を目指しています」

長崎さん
「田都会は建築家にとっては、1人ではできないことができて地域や住民の皆様と繋がることができる場所です。今後はお客様同士が交流できるような機会も作っていけたら良いなと考えています」
家づくりって楽しい!街の未来をつなぐ田都会

建築家との家づくりだけがお客様にとっての選択肢ではない、と考える「田都会」。お客様の声に耳を傾け、街に対してフラットに開いていくことで、良い住まい、良い街、良い地域を作っていきたい、と言う強い思いを感じました。
良い家づくりは建築家とディレクター、そしてお客様を交えたチームプレーだと当山さんは話します。
それぞれ補い合って家づくりのサポートをしてくれる田都会の体制は、わからないことばかりの住まいの不安を軽くしてくれるはず。
家づくりって楽しい!と思える人を増やすため、田園都市の街の未来を繋いでいくために。
新しい取り組みにも積極的な田都会の今後の活動から目が離せません。