なぜ、今“団地”が見直されているのか?

「新しいものばかりが良いわけじゃない。古くても価値のあるものを使い続けていきたい」。そんな考えから団地暮らしに憧れ、団地暮らしを始める若い世代が増えています。田園都市線沿線の街にも団地を見かけたことがありませんか? いま、なぜ、団地が見直されているのか? その特徴や課題と未来について、団地再生の専門家のお話も踏まえつつ考えてみましょう。

“団地”とはなにか?

都市部から移動して、団地の一角に入ると街の様子や空気感が変わることに気がつくはずです。緑が多く整然とした街路や、視界が開けて空が広く感じられる空間。周辺を見回すと、ゆったりとした時間の流れを感じるかもしれません。団地が醸しだす独特の雰囲気はどうつくられたのか。そのカギとなる背景は大きく2つです。

✓団地は、戦後の住宅不足を解消するために、国が計画的に作ったものであるということ
✓1950年代から日本各地で建てられ始めた、つまり時間を重ねた建物が多いということ
たまプラーザ団地

建物の高さによっても分類がありますが、いわゆる“団地”といえば4〜5階建ての中層住宅を指すことが多く、田園都市線沿線にも多くの中層住宅団地が存在しています。

ゆとりをもった住棟計画、団地ならではのコミュニティが特長

「計画的に作られた建物」がゆえの、ゆとりを持った住棟配置と、そこに集う人々のコミュニティが団地の特徴と言えるでしょう。
ゆとりのある住棟配置
1953年に制定された建設省のガイドラインには、団地における建物の住棟間隔は「冬至の4時間日照」という基準が示されています。1年で一番日が短くなる冬至でも、最低4時間の日照が確保出来るように、ゆとりを持って住棟間隔や配置を考慮することが求められていました。
すっきりと美しい配棟(すすき野団地)

その結果、住棟間には緑地帯や公園などが配置されることも多く、木々が成長した現在では森の中に建物が点在するような景観が生まれている団地もあります。外部から隔てられた敷地内は、安心して子育てができる空間でもあります。

配置のゆとりを数値で見てみても、一般的な中高層マンションでは敷地面積に対する延床面積、すなわち容積率は200%前後ですが、団地の場合は容積率30%〜50%というケースも少なくありません。

建て替えの際にも、余裕のある容積率が大きな力を発揮します。新しい建物は容積率を最大に活用し、増加するフロアを販売することで建設費用に充当するという手法です。大阪・千里ニュータウンなどでは、たくさんの建替事例が存在しています。

広い空を感じる空間(たまプラーザ団地)

団地ならではのコミュニティ
マンション等と比較して、一部屋一部屋に住むというよりも、一つの大きな空間を共有しているという感覚があります。
そこに住まう人々も、昔から住まわれているシニア層、子どもの頃団地に住んでいて大人になって戻ってくる人々、魅力にひかれて新たに入ってくる若い世代や子育てファミリーなど、多様な世代になりつつあります。

人との関わり方は、自分で選択すればよいことですが、いわゆる人情味あふれる人間関係があるという団地も多いようです(こちらの記事もあわせてどうぞ・https://dento.itot.jp/808)。

たまプラーザ団地では「たまプラー座まちなかパフォーマンス プロジェクト」によるパフォーマンス「ダダンチダンチ」(2018年)が
実施されたりとコミュニティのユニークな取り組みも見られる。

自分が住まう地域との接点が何かと見直されてきている昨今、「地域との関わり」と構えなくても人とのふれ合いが身近にあることは、貴重なことかもしれません。子育てファミリーにとっても、「公園までお出かけ」しなくても、敷地内の公園や広場が庭のような空間、そこに子供たちが集う環境は、安心安全ですね。

同じ集合住宅であっても、都市部の道路沿いに軒を連ねるようにして建つマンションとは、特性が全く違った住宅だと考えることができるでしょう。実際に、新しく団地生活を始める若い子育て世代は、優れた環境面や団地独特の雰囲気に魅力を感じているようです。

建物そのものは頑丈な建築、課題は?

建築後40年から50年の歳月を経てきた団地。重ねた時間は周囲の木々を育て、豊かな住環境を育んでくれる一方で、建物には経年劣化という影響も与えます。
重ねた時が育て上げた木々(たまプラーザ団地)

古い建物でも問題はないの? といった疑問を感じる方もいるでしょう。そんな疑問を、団地再生の専門家に尋ねてみました。

「日本では鉄筋コンクリート構造住宅の耐用年数は47年とされていますが、これは税法上の規定でしかありません。学会では75年は耐久性があると言われています。それをしっかりとメンテナンスしていくことにより、良質な100年団地ができる環境をつくることが僕たちの一つのテーマです」と語ってくれたのは団地再生事業協同組合の金丸典弘理事長。
金丸典弘さん

5階建ての中層団地では、壁面で構造物を支える「壁式構造」を採用した建物も多く、耐震性でも問題は少ないそう。また、昭和の時代に建てられた団地は、コンクリートの施工状態も良い建物も多いとのこと。

「ただ、全ての団地が大丈夫というわけではありません。管理状況によっては課題が発見されるケースもあります。また、現在は問題がなくても、将来の修繕計画がはっきりしていなければ課題を抱えることになります。コンクリートに問題がなくても、内部に埋め込まれた給排水管が劣化することも考えられます。良質な団地を維持するには、建築と設備、二つの側面をバランスよくメンテナンスしていくことが必要です」と金丸氏。

住戸解体時の様子
建物の古さを解消するために、建て替えという選択肢ももちろんあります。ただ、建て替えが決議され実行されるまでには多くの時間、数々の合意形成が必要であることと、何よりも建物に問題がない中で建て替えるという選択が必ずしもベストではないとも言えるのでしょう。建て替えるか否か、ではなく、メンテナンスで維持できるものは維持しながら、何よりも「団地の未来をどうするかを住む人々が考えることが大切」とも金丸氏はお話されています。
団地再生事業協同組合は団地住戸のリノベーションも手掛けている
金丸氏が理事長を務める団地再生事業協同組合は、「団地の価値を上げること」を目的とした組織で、団地を総合的に評価し、スコア化して優良物件には三つ星評価を与えるという活動を行っています。その評価軸は、建物の基本性能はもちろん、五感で感じる生活のしやすさ、団地運営の健全性、次世代理事の育成、コミュニティ形成や子育てのしやすさ、行政の付き合い等と多岐に渡ります。結局は、団地の未来を考えているかどうか、というところがポイントのようです。
団地の評価シート(例)

団地の未来、どうつくる?

住みつなぐことの重要性をうたわれながら、金丸氏は、「一方で僕らも、今の団地のかたちがそのままずっと残り続けるとも思っていないんです」とも語ります。 「団地とは、大きな土地・資産を持っているもの。この資産をどう活かしていくのか」そういう発想が大切であるとのこと。

例えば棟ごとに特色を付けていくような発想、ここには生活補助が必要な人、ここには保育園、商業施設を入れよう、など、自分たちの資産を自分たちでどう活かしていくのか、そういった視点が大事になってくるとお話されます。団地の購入とは、50~60㎡の決して広いとは言いがたい一部屋を手に入れることではなく、大きな資産をどう運営していくかを考える一員になるということ。そう考えると、背筋も伸びますが、何より可能性とワクワクを感じますね。
団地再生事業協同組合の資料より。

だからこそ、「次の団地を考えてくれる人に団地に入ってきてほしい」と金丸氏。「家も道具のひとつ、家を買うことがゴールという時代ではない。手を入れて、住み継ぐという考えが大事なのではないでしょうか」(金丸氏)。

団地がにぎわい、街がにぎわう。そうするとさらに商業施設が出来てきたりと、にぎわいの連鎖はつながるものです。街づくりや地域の盛り上げに興味のある方にとっても、団地には、暮らすことから始める地に足を着いたちょうど良さ、があるのかもしれません。 住まい探し・家づくりと言えばマンションか戸建か、ではなく、そこに団地という選択肢が普通に思い浮かぶ状態。そんなかたちが、団地の未来づくりの一歩のようにも感じます。

団地の居住性能を一挙に高めるリノベーション

団地は優れた住環境を持ち、耐久性や耐震性を備えた建物であることがわかりました。 とはいえ気になる、住戸内の住み心地はどうなのでしょうか? 古い団地の間取りは、リノベーションによって大変身が可能です。 分譲タイプの団地を購入し、自分らしさや家族のこだわりを存分に込めた住まいへと再生させた事例も実際にたくさんあります。

こちらは「たまプラーザ団地」をリノベーションされたM様のお住まい。もともと、このお部屋に住んでおられたのですが、お子さまの誕生をきっかけに住み替えを検討。しかし結局、他物件との立地・価格・住環境の比較から、住まわれていた団地のリノベーションを選択されました。採光や通風にも配慮したプランは子育てにもピッタリ。好きなデザインに囲まれて、快適な生活を過ごされているとのことです(詳しいストーリーはこちらhttps://dento.itot.jp/586)。

団地購入&リノベーションのメリットと注意点

中層住宅団地の5階建ての建物はエレベーターが設置されていないケースがほとんど。そのため高齢者など階段利用が難しい方は敬遠することもあり、売り出し価格は抑えられる傾向にあります。子育てファミリーや、カップルなどの若い世代にとっては、逆に狙い目だと考えることもできます。

リノベーションの費用は数百万円から1000万円を超えることも珍しくありませんが、割安で手に入れた団地住戸であれば全体コストを抑えて、優れた環境と好み通りの住まいを手に入れる事が可能です。
リノベーションの在り方は様々。相談会や内覧会をチェックしてぜひ出かけたい。

注意点としては、やはり管理状況やコミュニティの活動状況など、スペックだけでは判断出来ないソフト面での住環境にも目を配っておく必要があるでしょう。先に述べた団地再生事業協同組合のスコア化指標も重要な参考になりそうです。

もし、そこで暮らし始めるとしたら、自分と家族が主役となってコミュニティの盛り上げていく、未来の団地をつくる一員になる、そんな心構えとそれを楽しんでいくという気持ちも大切になりそうです。
たまプラーザ団地

2020年9月26日(土)には、こちらの記事に登場した金丸さんも登壇する無料オンラインイベントを開催します。団地暮らし、団地リノベーション、団地再生、などなど、団地のリアルに関するトークが盛りだくさん!ぜひお気軽にご参加ください。

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